役員(オーナー)からの借入金という、諸刃の剣的なものについて。
〜blog『relax&focus』より転載〜
役員借入金とは
役員借入金が発生する要因は
主に2つあります。
一つはオーナーによる資金の投入。
会社に何らかの資金が必要となったとき、
オーナーが資金を投入することがあります。
この場合、会社の預貯金は増加しますが、
その原因は何?というと役員からの借入です。
そして、もう一つは経費の未精算。
オーナーが会社の経費支払いを
立て替えることってよくあります。
これを後日精算すればいいのですが、
ほったらかしになることもしばしば。
すると、経費が計上されたのに
会社のお金は1円も減りません。
“お金が減らないのに経費が生まれる”
こんなステキなことが起きるのですが、
その実はオーナーのお金が減っています。
オーナーが立て替えて支払ったものの、
会社からオーナーへの支払いが
とどこおっている状態です。
会計ではこうした立替行為は
オーナーからの借入として扱います。
そして、後日精算がきちんとされなければ
そのオーナーからの借入は残り続けます。
そう、これらが『役員借入金』の正体です。
会社(税理士)によっては、決算書において
「短期借入金」「長期借入金」として
計上している場合もありますが、
付属する勘定科目内訳明細書をみれば
その存在の有無は把握できます。
この『役員借入金』というのが、
プラス?に働くこともあれば
マイナス?に働くこともあるという話です。
プラス?に働く
これは金融機関からの評価の場面です。
純資産:1,000万円
総負債:4,000万円
の会社だと、負債の比率は80%です。
この負債の中に役員借入金が
2,000万円含まれていたとします。
すると、評価としては
純資産:3,000万円
総負債:2,000万円
となります。
役員からの借入金は、純資産(資本)に
相当するものとして扱われます。
つまり、決算書の評価が
表面上の数字よりもよくなる、
という効果があります。
ただ、これをもって
プラスといっていいかどうかは
難しいところです。
だって、もともと純資産(資本)という
ものにその性質が極めて近いから
金融機関もそうした評価をするわけです。
ですので、プラス評価というよりも、
実質評価をしてもらえる、というのが
正しい表現になります。
マイナス?に働く
これはオーナーが亡くなったときの話です。
この『役員借入金』は
会社にとってすぐに
返済できるようなものでは
ないことが多いです。
返済できるなら、
とっくにしていますし。
一方で、「オーナーの財産」という視点でいえば、
この『役員借入金』は『会社への貸付金』であり
立派な財産です。
オーナーが亡くなると、当然この貸付金も
相続の対象であり相続税の対象となります。
“親父から2,000万円の貸付金を引き継いだ”
これは立派な財産の移転ですが、
その貸付先が父親が運営していた
会社である場合、その貸付金は
お金を生みにくいシロモノです。
お金を生まないにもかかわらず、
2,000万円の財産をもらったとされて
相続税が課税される、というのは
ちょっとたいへんな話です。
2,000万円の現預金をもらったのであれば
その中から納税することもできますが、
会社の資金繰りが厳しい場合には
その貸付金を換金することもままなりません。
このように、お金を生まない財産が
税金つきで引き継がれるというのは
もらう側にとっては迷惑な話です。
財産をもらっている事実は変わりないので
マイナスといっていいかは難しいところですが、
お金にならないのなら、相続税の対象に
なってほしくないというのが本音でしょう。
貸付債権の贈与
そこで、わたしもよく提案するのが
『役員借入金』の生前贈与です。
高額の場合には、贈与税を支払ってでも
生前贈与のスピードを速める価値は
あると考えています。
相続税の心配があるからその対策のために
110万円非課税枠を利用した生前贈与をしたいけど、
多額のお金を渡すのは子どものためによくない
と考える親御さんはたくさんいらっしゃいます。
そんなとき、もし自身の運営する会社に
『役員借入金』があれば
まずはそちらから贈与していくのも
一つの方法です。
こうすれば、多額のお金を渡すことなく
ご自身の相続対象財産を
次の世代に移転させることができます。